確かに。
確かに8月26日くらいまで
地獄のように暑かったはずなのですが。
3日間の雷
1日間の暴風雨
さらに深夜の台風通過を経て
昨日からの鹿児島は蒼天心地よい秋を迎えています。
過ごしやすくて本当にありがたいのですが
窓辺に下げた風鈴の音色が
もう似合わなくなってきているのが少し寂しい。
先月から、秋の研修のお打合せであっちこっちと出かけています。
そのお打合せで、今日あった出来事少し。
その方の名刺をいただいたときに
「おっ…」と思いました。
このお名前、かっこいい。
と、いいますか、わたしの年代ならば、つい思い出してしまうんじゃないか、という
ある有名なアニメの登場人物と同じお名前だったのです。
自然、自己紹介を兼ねて
お互いの「名前談義」がはじまりました。
「このお名前…小さいころ友達に突っ込まれたりしませんでしたか」
「しました」
と責任者さま。男性です。そりゃそうだろうなあ。
この名前の小学生って、なんだか渋いもの。なかなかに頑固なお名前です。
お聞きしてよいのかな…と思いつつ、湧き上がる好奇心には勝てず
聞いてみました。
「あの…お父様はどのようなお気持ちでこのお名前をお付けになったんでしょう」
すると満面の笑みで
「なんでも、父自身がそう生きたいと思ったらしく、つまり、あてつけみたいなもんですよ」
と。
「あてつけなんて…お父様の願い、なんですね~」
そう頭をよぎった思いを口にしつつ。
間をおかず
「先生のお名前はどのような由来なんですか?」
と聞いてくださり、お、来た、と思いつつ
いつもの軽い戸惑いが。
由来を聞いたことがないのです。
覚えているのは父(だったかもうろ覚え)のこの一言。
「近所に、そういう名前の人がいたんだよ」
仕方ないので、「…ってことらしいんですよ」
と話しました。
すると、その方がおっしゃったのです。
「いやいや、それは、お父様なりの愛ですよ。
本当は、たくさんの思いを込めておつけになったはずです」
予期せぬ言葉、それも即答に正直少し驚きました。
「あの~、失礼ですがどうしてわかるの?」
とつい突っ込みたくなったくらい。
その方は、こう話してくださいました。
「私にも娘がいるんですが
『お父さん、わたしが生まれたとき嬉しかった?』なんて聞かれると
もう、何だか素直にうんと言えなくて…
つい『橋の下で拾ったんだ』なんて言っちゃうんですよね~」
ええ?!それ、ひどい。
ひどいけれど…ああ、そうなのか。
「もう、名前の由来とか…
お前を愛してるとか大切だとか…何だか言えないんですよね~」
と、お話しになる
その表情はとても優しく。
その笑顔を見ながら、ちょっと大げさなんですが
自分の中で何かががらがらと音を立てて分解してゆくのを感じました。
「謎がやっと解けた」という感じ。「つながった」という感じ。
「そこか!」という感じ。
ああ、そうなのか。そうだったのか。
父親というものは、そういう人種なのか。
…なんて、めんどうくさい。
ずっと、ずーっと
「近所に同じ名前の人がいた」というわが名前の由来を信じていました。
変な由来だなと思いつつ。
そしてそのことを、
心の中にかすかな「ひっかかり」として
自分が思うよりもずっと大切に
とどめていたようです。
…冗談だったんですか。あれ。
胸の奥の奥。
自分でも忘れていた
気づかないくらいの小さな箱の扉が開いて
中にあったものが
ふわっと空へ上っていくような。
長い間の宿題がやっと終わったかのような。
そんな不思議な感覚を味わいました。
自分の中の思いが、一つ終わり
やっと空に昇ってゆく。
「面倒くさいですよ、お父さん、ホント」
打ち合わせが終わり、社屋の外で見上げた空。
あまりにも高くて綺麗なので
そうつぶやきたくなりました。
23年もたってやっと解けるパズルを用意しておくなんて。
「やっとわかったか」
そう言って、あの子どもみたいな独特の笑顔で笑っている
父の顔が、秋空の彼方
久しぶりに思い出せた気もしたのでした。