「深知今日事ーふかくこんにちのことをしるー」

「その先を見せる」

数学が苦手だと、なんとなく思っています。

「成功体験」がまったくないわけではないんですけれど。

確か中2の秋くらいまでちんぷんかんぷんだったんですが

さすがにこれではヤバい!と勉強し始め、やがて問題を解くのが面白くなって

テストの点数もぐんと上がって

「勉強が楽しいってこういうことか」と、初めて実感したのは

数学がきっかけだったと思います。

でも、今となってみればやはり苦手…。

なんというか、あまり縁のなかった教科、という感じがします。

あんなに面白くて、できていた時期もあったのに

数学との関係に関しては「残念だったな…」というところでしょうか。

さて

知人の先生。

この方、中高一貫校の先生で

ついこの3月まで、高校三年生の担任として受験の修羅場を戦い抜き

感動の卒業式を終えられ、ほんののしばしの「戦士の休息」を経て

今度は小学校からきたばかりの

「ひよこ」くんたちの担任として四月をお迎えになったところです。

「高校三年生と中学一年生、違うでしょう~」

とわたし。

「小さいです(笑)」

「ですよね~」

えっ、こんなことから説明しないといけないの?

という新鮮な発見の日々にいらっしゃるようです。

「言葉の使い方ひとつとっても、『これでいいのかな?』『これで伝わるのかな』と考えます。

歌のお兄さんになったつもりで接してますよ~」

こういう学校の先生方は、表現力に関しても更に磨かれる場面が多いのだなと

その幅広い対応力に敬意を表します。

さてそして

初めての授業の時間。

内容は「正負の数」。

(この方の専門は数学です)

「まずは、算数から数学に名前が変わったね~、というところから入ります」

どうしてだろう?どんなところが違うんだろう、という問いかけで、興味を掘り起こすところからはいるのですね。

そして、本編。

「小学校の時に、みなさん、いろんな数をならってきましたね。整数、分数、少数…」

はい、そうです。先生。

(完全にわたしも中一目線になっています)

「そして、今日から学ぶのは『正負の数』です」

黒板に、数字の線を描く。

「こんなの、みんな、どっかで見たこと、ない?」

「ありま~す。温度計です!」

(と、生徒さん、元気に答えたそう)

それからずっと、そういうお話が続きます。

ご本人曰はく「ここは数学的には本来あんまりひろげなくてもいいところなんですけれどね」。

海抜0を起点に山は高くそびえ、海溝は下へ降りている。

陸上競技の「追い風(+)」と「向かい風(-)」。

ゴルフ。

などなど…

これを

図や絵を使って、ひとつひとつ、子どもたちと丁寧に「イメージ」していく。

「プラスの風っていうことは、風はどちらから吹いているの?」

「こっち~!」(一斉に)

「そうだね~」

(走っている人の絵の後方に、雲がふうっと息を吹いている【北風と太陽の北風みたいな?】絵を貼る)

「マイナスの風ってことは?」

「逆です~」

「そうだね~」

(雲の絵【リバーシブル仕様】を走者の絵の前方に張り替える)

楽しい。

聞いているだけでも楽しい。

正と負の数の概念がとてもわかりやすいのもそうなんですが

何より、今自分の中に起きているこの熱い「モチベーションの高まり」は、そう。

「この先に、どんな世界が広がっているか?」

が一瞬見えた、そんな感じでしょうか。

正負の数からはじまるこの

「数学」の世界。

今から自分が学んでいく、この不思議な、難解な世界の向こうに

それがちゃんとちりばめられ、息づいている世界がある。

生活のあらゆる場面で息づいている。使われている。

自分が学ぶことは、ちゃんとこれから自分が生きていく大きな世界と「つながっている」。

う~ん、うまく言葉になりませんが。

「数学」に関して

純粋な興味と、「わたしもその世界を知りたい」「探究したい」というモチベーションを

初めて感じました。

中学の時に感じたあの昂揚感は

「受験に落ちる」という怖さと、後半は「問題を解く」ことへのゲーム的な楽しさでした。

あれはあれで楽しかったですが。

「先を見せるって…大事ですね」

とわたし。

自分に言い聞かせるような声だったと思います。多分。

それをすることの先に何があるのか?

何とつながっているのか?

それが見えているとき、人はずっと軽やかに、意欲的に、たくましく、そして何よりはやい速度で

目の前の目標をクリアできる。

「メタアウトカム」が見えていることは大事。

(アウトカム=手に入れたいもの  メタ=~を超えて)

わたしの仕事の世界ではしごく当たり前の概念ですが

こうやって授業のお話を聞きながら、あらためて

この丁寧な「最初の1時間」こそが

彼らの中にどんな根をおろし、どんな土台となって、彼らの学習のモチベーションを支えていくのか

とても楽しみになってきたのでした。

ある子にとっては、下手すると一生を左右するような時間になりえる。

どんなふうにそれと「出会わせて」あげるのか。

…先生とは、何とも責任重大な、そしてなんとも心躍るお仕事です。

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