「深知今日事ーふかくこんにちのことをしるー」

「ベルサイユのばらはミュージカル界の歌舞伎~古典の力。型の力」

 

一か月ほど前フェイスブックに
「1970年代の宝塚のベルサイユのばらを見たらそのセリフの格調の高さに驚いた」

というような感想をちょこっと書いたのですが
もうひとつ、感じたことがあります。
それは、一言でいうと

 

「歌舞伎みたい」。

 

リアルタイムで見ていた小さな頃はそんなこと、思ったこともなかったんですが。

 

 

 

 

 

 

 

ロココ全盛期。18世紀フランスが舞台。

ドレス、金モール、ブロンド、くるくる巻き毛の

「超洋物」の世界であるにも関わらず
とても「歌舞伎っぽい」。

(いえいえ、そんなに歌舞伎に詳しいわけではないですが)

 

間合い、視線の決め方、所作、ポーズの決め方、などなど…。

「はっ」と驚くのに、片足大きく下がって上半身をくっとのけぞらせて

大きく目を見開く、なんて
あれは完全に「見得」だなあと。

 

 

そして
小さい頃は「きれいだな」「かっこいいな」と

ただ見惚れていましたが、

この「かっこよさ」が

 

「ベルサイユのばら」

 

という作品のために
それこそ血のにじむ思いで生み出された「新しい形」であったことを知ったのはつい最近。

以下
NHK出版「プロジェクトX 挑戦者たち~ベルサイユのばら 愛の逆転劇」より。

1960年代~70年代。
宝塚歌劇団「冬の時代」の起死回生の作品として

上演が決まった「ベルサイユのばら」。

が、上演が決まった直後から、劇団に大量の手紙が届き始めた。
それは原作マンガの熱狂的なファンたちからのもので

「キャラは八頭身。日本人ではありえない。やめろ」
「生身の人間が演じるとイメージが壊れる」

 

 

中にはカミソリ入りの脅迫状もあるほど、

猛抗議の手紙が送り続けられた。

当時「ベルサイユのばら」の人気は圧倒的。
宝塚ファンのみならず、

何百万という原作ファンに注目されている。

 

イメージ通りの舞台を作らなければ大変なことになる、

と戦々恐々とする一同。

練習開始。

けれどとまどう生徒たち。

できる限り原作のイメージに忠実に演技しようと思うのだけど、

原作はマンガ。

「決めの場面」の姿はわかっても、

コマとコマをつなぐ「間の動き」がわからない。
結果、どたばたとした所作の連続に。

 

 

 

 

…今は漫画やアニメが普通にミュージカルになる時代ですから
感覚的に、何の無理も不思議もなく、

役者さんたちも演じているのでしょうが
(何せ生まれた時から周りにそういう世界があるわけですから)

40年前は本当に、こんなところまですべてが「一から」だったんですね。
大変…。
いわば、宝塚のベルばらは「2.5次元ミュージカルの元祖」?

さて、話を戻して
それを救ったのがこの方。

 

 

 

 

 

長谷川一夫。

 

 

稀代の名優、二枚目スターといわれる方なのは知っていましたが
歌舞伎の女形出身なのだそう。
そして当時、宝塚に演出として招かれていた。

「客の心を動かすには、技がなければダメです」 by長谷川一夫

そして。

歌舞伎と銀幕で培った技のすべてを使っての演技指導がはじまります。

 

このあたり、小さいころに見ていて、

とてもかっこよくて美しくて…
今でもしっかりと覚えている(真似までできる)
一枚の絵のような美しいあの名場面、この名場面が
歌舞伎の技からきていたものだったなんで!

とおおいに納得するのですが。(詳しく知りたい方は本をご覧ください)

印象に残ったこと思ったことを一つ。

主役、オスカル。

原作ではその瞳に星が飛んでいる。少女漫画ですから。

 

「あの瞳の星を舞台の上で飛ばしなさい」

 

と言われ、呆然とする榛名さん。(初代オスカル役の方です)

 

けれど…

初日に、彼女はちゃんと舞台上で目に星を飛ばすことに成功するのです。
客席からは

 

「光ってる」「ひゃー」「キャー」

 

の叫び声。

「目線を、二階席の手すりから一階席まで落とせ。そして『い‐二三番』の席を見なさい」

これが、長谷川さんの指示。
ピンスポットが絶妙に目に当たり、乱反射する角度までを計算しつくした演出。
…これは300本以上の映画を通して照明の当たり方を研究し尽くした、

長谷川さんならではの技だったそう。

初日、舞台は大成功。
この日を境に脅迫状はピタリ、止まった。

かくて。
少女漫画。しかも、18世紀フランスの王宮が舞台。

夢のように華やかできらびやかで豪華なこの世界観を、

見事日本人によって演じきり、

 

「宝塚100年の名作」

 

にまで作り上げた「ベルサイユのばら」。

その根底には、歌舞伎や歌舞伎に端を発した、

日本の商業演劇の伝統的なテクニックが大いにあったのでした。
というお話。

今となっては「普通」、で「定番」ですが、
その土台となっているのは、長谷川一夫の心身にしみ込んだ
ほかならぬ

 

「日本の美意識」

 

であり鉄壁の「型」だった、ということ。

 

そして、
当時「こんなに美しい西洋の世界♪」と思って憧れ、マネしていた世界を通して、
結局しっかりと「にっぽんの型」

が自分の身に染み込んでいた、ということに、

不思議ながらもうれしくありがたく、そして妙に
「帳尻のあった」感覚を今、抱いています。

この頃の 「ベルサイユのばら」を見ていた方、いらっしゃいましたら…
どのオスカルが好きでした?
そのアンドレが好きでした?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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